連載⑭「日本国憲法を学びなおす」
小さな島国の宝物~日本国憲法の話をしよう その7
野間 美喜子 (2003)
「今こそ、憲法九条」
今後、国連の安全保障政策をどう考えるか、日本はこれからどうやって国連とかかわっていけばいいのか。
今までずっと見てきたように、制裁のための軍事力というものは意味を持たなくなっているんですね。国連安全保障システムも武力行使です。これも限界が見えてくる。冷戦が崩壊してアメリカの軍事力が抜群です。アメリカが悪いことをしたら、アメリカの強大な軍事力にどう戦うのか。国際紛争自体が、政治的・経済的要因で起きているわけで、現在の多国籍軍のイラク派兵に見るように、実はもう軍事力で解決できない状態になっている。
では、どうしたらいいのか。
1980年代に、私たちは弁護士の仲間で『負けるな 日本国憲法』という本を書きました。その中で、平和政策について「八つの提言」をしています。
それは次のようなものです。
一. 紛争の原因をつくらない
二. 軍事力によらない国際紛争の処理システムの確立
三. 軍縮のために力をつくす
四. 地球から貧困をなくす努力
五. 民主主義と人権の強化
六. 平和教育と平和研究の推進
七. 経済的・文化的な協力関係と相互依存性の強化
八. 人間の交流と理解を深める
これが、日本の安全を守る道でもあり、国際貢献の道でもあり、世界平和への積極的な政策ではないかと考えます。ほんとうの意味で世界平和を守る唯一の方法は、武器によらない、武器を手段としない平和政策以外にはもうありえないと言えると思います。
そう考えてみると、私たちは「負けるな 日本国憲法」と言いましたが、冷戦のなくなった今の段階ではむしろ、「今こそ 日本国憲法」「今こそ 第九条」と、こう言った方がいい。今こそ、憲法第九条を世界に広める好機ではないかと考えるわけです。
小さな島国の宝物を守るために
にもかかわらず、憲法九条を変えようとする動きが盛んです。海外派兵を自由にやりたい、武器も自由に輸出したい、自衛隊を強くしたい。こういうことから目の上のたんこぶの憲法第九条を何としても変えたいわけです。
うまいやり方として、第一項の「戦争の放棄」だけは残して、第二項の「軍備及び交戦権の否認」を変えようという主張があります。二項には、「日本の独立と安全を図るために、自衛隊を置く」という項目を持ってくるという改正を、ずっと自民党は考えてきているんですね。しかし、第九条は二項が大事なんです。
「戦争や武力行使の手段である陸海空軍その他の戦力を保持しない。」ということがあって、初めてその目的が達せられるんですから。九条の抜け殻だけあったって仕方ない。
また、九条の改正は自衛隊を認知するだけだと思ったら大間違いです。第九条という非武装の憲法条項と、それに違反した自衛隊という存在がこの50年間ずっとあった。それでも自衛隊を増強するため、第九条と矛盾するということの答えとして、日本の政府はありとあらゆる約束事をしてきているわけです。それで1冊の本ができるぐらい。
例えば、「自衛隊の海外出動をなさざることに関する決議」、「非核三原則」、「徴兵制度は憲法の趣旨からみて許されない」、「武器禁輸三原則」、「防衛費はGNPの1%以内」などなど。言い出したらきりがないほどの約束事をしてきた。この約束事をはずしたいために、この憲法九条の第二項を削ろうとしているんですね。
世界第三位の軍事力を持っている国にはなってはいるけれども、この憲法が一項二項とあることで、それでも何とか日本独特の枠組みができている。海外派兵はしたけれども、後方支援とか人道的支援とか、自由が利かないようになっています。
その足かせをはずしていこう、国民意識の中でもその意識をはずしていこう、国民の意識を変えていこう、という目的があるのです。日陰者の自衛隊を何とかしなければならない。自衛隊は昔から、生まれた時からあるんだから、あるものは認めていかなければならない。こんな言い方もよくされますが、果たしてそうなのでしょうか。
戦争で不本意な死を遂げた若者たちの犠牲の上に築かれた憲法第九条。戦後、東洋に落とされた一粒の真珠にたとえられた日本国憲法。それは、小さな島国・日本の宝物です。また冷戦後のこれからの世界にこそ、本当に意味を持ってくるのだと、私は思います。
今、憲法改正論議が盛んですが、憲法を改正するには、「国民に提案してその承認を経なければならない。」と、憲法で定められています。国民の承認は、国民の投票で「その過半数の賛成を必要とする。」とされています。国民の直接投票。内閣や国会の決議で勝手に憲法は変えられません。
私たちの子どもや孫が再び徴兵されて、戦争に駆り出されないためにも、私たちは憲法改正論議の本質をよく見ていかなければなりません。私たち自身の判断が、日本の将来が問われる時が、すぐそこに来ています。
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