連載⑫「日本国憲法を学びなおす」
小さな島国の宝物~日本国憲法の話をしよう その5
野間 美喜子 (2003)
古い思想「西側一員論」
「ソ連脅威論」「戸締り論」の後に出てくるのが、「西側一員論」です。これが、結構いやらしいものの考え方で迫ってきます。「西側一員論」は、やがて「国際貢献」へと変わっていきます。
「西側一員論」は、1983年の防衛白書で出てきました。当時は米ソ対立の時ですから、こういうことを言っています。
「現在の国際社会の枠組みは、米ソを中心とした東西の軍事ブロックの対立である。この二つの軍事ブロック間の軍事バランスが、これまで世界の平和を生んできた。ところが最近、ソ連の軍拡とアメリカの経済力の低下のために、東西の軍事バランスが崩れそうになってきた。日本は経済大国になったのに、軍事費を使わないで平和にただ乗りをしてきた。いま、日本はその地位にふさわしい軍事力をつけて、西側の一員として責任を果たすように期待されている。自由と民主主義を共有する西側の一員として、日本はその期待に応えなければいけない」。
経済大国になったのに、一国平和主義ではだめじゃないか、と。これはけっこう大国意識をくすぐったんですね。
ただ、西側一員論は崩しやすかった。国際社会を米ソの二極間対立、軍事ブロックの対立という軍事バランスでとらえて、そこを出発点にしています。この考え方は、先ほど勢力均衡論の破綻を見てきたように、非常に古い思想です。軍事バランスが平和をつくることにはならない、というのが回答ですね。
この考え方でいくと、日本が西側の一員として責任を果たせば果たしていくほど、東西軍事ブロックの対立がますます厳しくなってくる。西側の一方に加担していくことが平和の道ではなくて、東西対立を逆に和らげること、軍事ブロックの解消に力を尽くすことこそ、平和への道ではないか、という反論をしたいわけです。
国際政治の焦点は東西間の対立ではなくて、環境問題とか人口問題とか、もっとグローバルな人間の生存に関わる基本問題にあるのではないか、と思います。
「西側一員論」が言われ始めた1980年頃から、世界の国々の経済的な相互依存関係が進んできました。例えば、西ドイツはソ連からパイプラインで天然ガスの供給を受ける。東西間でもお互いの経済依存が非常に強まってきた。それから、発展途上国が力をつけてきた。地球のいろいろな構造が複雑になり、変わってきている。その究極の発展が冷戦の崩壊という形になるのですけれど。
国際社会が変わっていこうとしているのを無視して、日本だけが「西側一員論」のように、わざわざ東西対立を煽って、片一方の軍事力に加担していく。それは間違っているのではないか。そこには、西側の経済が世界を支配しようという真意がよく出ています。
資本主義体制が世界経済を支配していくための戦略、西側先進諸国が地球上のいろいろなところに持っている経済的利権を守るための理屈。そのために、「西側一員論」が強く唱えられた、ということだと思います。