◆所蔵品から◆資料ナンバー1265「令女小説 春の歌」 の話
資料班



「令女小説 春の歌」

「令女小説 春の歌」 表紙 裏表紙

 先月の「所蔵品から」で、大正2年(1913年)の英語の教科書をご紹介したのですが、その時に「赤毛のアン」の時代と重なるのではないか、という話をしました。
 今月ご紹介するのは、「赤毛のアン」の翻訳者村岡花子の小説「春の歌」の本(1946年発行)です。

「令女小説 春の歌」 「令女小説 春の歌」

「令女小説 春の歌」

 中の扉のページと、最後の奥付です。
 奥付には「著者検印」という欄があって、きれいなブルーの模様が入った小さい紙に「むらをか」というはんこが押してあります。
 ほかの本で、「検印廃止」という文字の入った奥付は見たことがあったのですが、なんとなく検印は出版社か印刷・製本の会社の製品チェックの印だと思いこんでいました。
 出版部数を管理するために(出版社が著者に知らせずに余分に作って売ることがないように)著者が確認の印をつけるのが「検印」で、著者の収入をあらわす「印税」という言葉はこの辺から来ているらしい。今回調べて知りました。

「令女小説 春の歌」

「令女小説 春の歌」

 さし絵のページを追って、本の中身を見てみましょう。さし絵は櫻井悦子です。
 丸の内(東京)の某一流商社の社長室。波岡社長と、呼び出された山口登志子(本文によると「50がらみ」)。
 アメリカにいる古い知人吉田が亡くなり、残された娘、静枝の後見を託された社長。
 山口は「家事取締」という役職で静枝の家に住み込むことになる。月給500円。

「令女小説 春の歌」

「令女小説 春の歌」

 「莫大な財産」を引き継いだ静枝(20歳)。日本の家で最初にむかえた朝。「美しい寝台」で「卓上電話」を使う。大森の高級住宅地帯にある新居には、ピアノ・蓄音機・電気冷蔵庫も後から届く予定。
 電話の相手は卓上の花の送り主、波岡社長夫人の久美子。
 静枝の到着に合わせて届いた花には
「祖国の土の上の最初の眠り、まどかなれとこそ祈ります。これから仲よくして下さいね」
というメッセージカード付き。しかも「うるわしいペンの走り書き」。

「令女小説 春の歌」

「令女小説 春の歌」

 波岡久美子を訪ねた静枝。久美子は体が弱い。、
 静枝は、山口登志子が息子の茂雄を自分に近づけようとしていることを心配し、相談する。
 そこに来客がある。高木三郎という青年。自分の稼ぎをつぎ込んで託児所をやっている。「臨海保育」のための資金の相談に来ていた。静枝はお金の活かし方を見つける。

「令女小説 春の歌」

「令女小説 春の歌」

 避暑地軽井沢での子どもたちの合宿(海は危ないので山になった)。「運動シャツに半ズボン」の高木青年。「ラジオ体操」の指導もする。静枝は保母の助手としていっしょに子供たちの世話をする。(名乗らずに資金の援助もしている)

「令女小説 春の歌」

「令女小説 春の歌」

 避暑地の波岡夫人。比較的体調良く過ごせるので縫い物などの仕事をする(別荘にミシンがある)。
 避暑地にも「隣組」ができたという話をしている。

「令女小説 春の歌」

「令女小説 春の歌」

 母親に呼ばれて来ていた山口茂雄と、若い保母の佐藤よし子(この日はお休みなので着物姿)が偶然出会い話をしているところに子どもたちを連れた静枝が通りかかる。
 (茂雄はこの物語ではいいところがあまり描かれない頼りない人物なのですが、この絵からはあまり駄目さが伝わらないような。)

「令女小説 春の歌」

「令女小説 春の歌」

 夜中に高木の家の戸を叩く者がいた。託児所の少年虎吉の父親だった。虎吉が「ひきつけ」を起こしたという。
 高木は、託児所が世話になっている高橋医師を呼びに走る。
 高木の頭の中に「母親学校」の構想が浮かぶ。

「令女小説 春の歌」

「令女小説 春の歌」

 高木は40度の熱を出し寝込む。保母たちと静枝は熱心に看病をする。
 12月8日の朝を迎え、真珠湾攻撃の報道を聞いた皆は病床へ駆けつける。高木は「何という無茶をやったんだ……日本は……僕は……反対だ……軍国主義はいかん……」と言う。
 静枝には、「戦争の中でも平和の女神でありなさい」皆には「平和の建設にとりかかるのだ」と言い残して高木は「永久の眠り」についてしまう。 高木にはいつか静枝が弾いた「春の歌」が聞こえていた。
 残された静枝は、三郎の志を継いで母親学校建設への道へ向かう。

 最後に、作者から読者へのメッセージ、「はじめの言葉」をご紹介します。

 戦争の中で烈しい労働と苦しい犠牲に耐えて来た若い女性のみなさんに、この一冊の物語をささげます。
 民主主義の国アメリカで成長した女主人公が語り、また行うことの中に自由ということの正しい意義をつかんでいただきたいのです。
 西洋の美しさと、日本の温かさとを、しっかりと身につけていただきたいと念じつつ、愛する読者のみなさんたちに御挨拶を送ります。
 昭和二十一年秋   村岡花子



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