ボランティア・ガイド研修会~バックグラウンドを耕す~◆西形久司氏のお話
運営委員 高橋 よしの
1月11日、西形久司氏の「ボランティア・ガイド研修会~バックグラウンドを耕す~」が開催されました。参加者は30名。この研修会は常設展ガイドを目指す方の勉強会として始まりました。今回は、ガイドのやり方や内容を深めるというより、ガイドとしてバックグラウンドを耕しておこうというお話でした。タイムリーな話題を取り上げながら、いかに日本が軍事費をつぎ込み、増強し、戦争へと歩み出そうとしているか、その危うさを感じさせるものでした。その内容をご紹介します。
西形さんははじめに、2007年5月4日にオープンした「NPO平和のための戦争メモリアルセンター設立準備会」というピースあいちの原点を忘れてはいけないと話されました。それは、「民間のわれわれでやれることを準備しておこうということ」。つまり、せっせとバックグラウンドを耕しましょうと。

タイムリー そのⅠ「不発弾」
2024年10月17日中区丸の内で見つかった不発弾と、その1週間後10月24日に東区1丁目布池教会で発見されたものはどう違うか。前者は焼夷弾で後者は爆弾。発見場所に米軍撮影画像の爆撃中心点を重ねて、17日のものは3月19日の空襲で落とされた焼夷弾、24日発見のものは3月25日投下の爆弾と特定できる。爆弾には延期信管が装着されていて、信管のプロペラ回転により、ねじ式の軸が押し下げられ、軸が中のアンプルをこわし、溶剤を出し、溶剤がセルロイドのストッパーを溶かし、ばね仕掛けの撃針が雷管を突いて起爆する仕掛け。それが、うまく進まないと不発弾になる。
激戦地だったガナルカナル島(人口15万人余)では今でも毎年20人ほどが、不発弾により死亡または、重傷を負っている。現在の日本に置き換えれば、年間2万人近くが犠牲になる計算。空から爆弾を落とせば、何割かは不発弾となり忘れた頃に、戦争に直接責任を持たない人たちを殺傷する。爆発した爆弾は日本のものか米軍のものかわらないが、誰も責任を負わず、補償もしない。地中の焼夷弾は、空から爆弾を落とす空襲の意味、ひいては戦争の理不尽さ、その本質を私たちにつき付けている。名古屋が受けた空襲―投弾高度と投弾量(出撃機数40機以上)の展示パネルもぜひ、ガイドの時には使ってほしい。
タイムリー そのⅡ「被団協のノーベル平和賞受賞」
被団協は、核兵器は「反人間的」と明確に指摘し活動し続けている。また模擬原爆の存在を発見し、その謎を解明したのはピースあいち設立準備段階からのメンバー金子力さん。米軍資料から『パンプキン』という言葉を手掛かりに、7月26日八事に投下したシリアルナンバー6292「エノラゲイ」を特定。それが8月6日に広島に原爆投下していくことを見つけた。名古屋が原爆投下の最終リハーサルだった。
原爆の被害は1945年9月19日のプレスコード(日本における新聞遵則)によって隠されていく。栗原貞子「生ましめん哉」、峠三吉「にんげんをかえせ」などの原爆関連作品は検閲により差し止め、または没収。新聞・雑誌・書籍・ラジオ・演劇台本などは民間検閲支隊CCD(Civil Censorship Detachment 民間の組織ではなくGHQの一機関)による徹底的な検閲がなされた。私信の無作為抽出など、1949年まで、新憲法下(施行1947年5月3日“検閲、これはしてはならない。私信の秘密は、これを侵してはならない”とある)で検閲が、日本政府の費用負担のもと行われていた。新憲法下での、占領軍の検閲―その負の側面―軍隊は民主主義を創造しないということ、真の民主主義は人民によってのみ創造されるという知識をバックグラウンドとしてもってもらいたい。(米国の歴史学者 ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』からThe democratization could only be created by the people.)
タイムリー そのⅢ「中国・イスラエル・ロシア・アメリカの4か国の武器移転から今の世界を見てみると…」
イスラエルはなぜ戦争をやめないのか。それは、イスラエルは軍事国家だから。戦闘機も戦車もミサイルシステムも国産。ハマースの発射したミサイルを、イスラエル側が全部撃ち落としたというニュースが流れるたびに、イスラエルの防空システムの優秀さが実証され、イスラエル製の武器を売り込むチャンスが拡大する。軍事産業が基幹産業で、戦争をしないと経済が回らないという体質。
イスラエルの武器輸出先はインドが37%。次いで、アゼルバイジャン、フィリピン、アメリカの順。
中国の武器輸出先は78%がアジア。その7割をパキスタン、次いでバングラディシュ、ミャンマーの順。
ロシアの武器輸出先は31%がインド。中国23%、アフリカ22%、旧ソ連諸国9%。
アメリカの武器輸出先は1位サウジアラビア、2位日本、3位オーストラリア、4位カタール、5位韓国。
SIPRI(SIPRI Yearbook『シプリ年鑑』は、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(Stockholm International Peace Research Institute, SIPRI)が毎年発行する年次報告書)は日本の現状をどうとらえているか。
中国・インド・日本の3国でこの地域の軍事費の73%を占めている、中国は28年連続、日本の防衛費は昨年比5.9%、2013年比18%の増加。日本は防衛政策の重大な転換を行った(”SIPRI YEAR BOOK 2023”pp.181~183)。それは、従来のGDP比1%という上限を放棄し、1.1%に。さらに2027年までに、2.0%へ(2022年発表の防衛戦略)。
日本政府は3つの安全保障上の脅威を口実にしている。
① 中国の急成長
② 北朝鮮の予測不能な軍事行動
③ ロシアのウクライナ侵攻(”SIPRI YEAR BOOK 2023”pp.181~184)
2020年のSIPRI Year Bookには、軍事費上位15か国の中で日本が最もmilitary burden(軍事費の負担)が軽いと書かれていた。
日本が武器(防衛装備品)の輸入に支払った金額は軍事国家のイスラエルよりも大きく、戦争中のウクライナよりも大きく、世界のベスト10にランクイン。いま世界で武器は政情不安をエネルギー源にして成長しつつあるビジネス!そして、日本までが武器輸出に参入すると、ますます世界の平和は危うく…。
と、熱く西形氏は語りました。10月の2発の不発弾が、焼夷弾と爆弾の違いまで特定できるとは、すごい調査能力ですね。不発弾は80年たっても発見され、命を脅かす危険性をはらんでいる。それらからわかってくるのは、まだまだ戦争の負の遺産を残していること。「その責任のある人たちは去る前に後始末をしなかったのか」というガダルカナル島(首都ホニアラ)の不発弾で負傷した女性の言葉を西形さんは話の中で紹介されたが、おもく胸に突き刺さってきます。
日本は戦争しない国のはずなのにアジアでは、インド、中国に次いでの軍事国になっているとは。武器・軍事費の現状はこれも重く心にのしかかってきました。
「今日参加された方は、ボランティア・ガイドになってください」という、主催の方の呼びかけで締めくくりました。