戦後80年の新年に
NPO平和のための戦争メモリアルセンター理事長 鈴木 秀幸
ついこの間始まった気のする21世紀も、はや四分の一が過ぎようとしています。新年を迎えて、今の世界そして日本について感じるところを述べたいと思います。
戦後80年の新年に
NPO平和のための戦争メモリアルセンター理事長 鈴木 秀幸
ついこの間始まった気のする21世紀も、はや四分の一が過ぎようとしています。新年を迎えて、今の世界そして日本について感じるところを述べたいと思います。
世界の状況は…
各国各地で人類歴史上100年も遡ったかのような戦争が起き、数十年前に終わったはずの独裁的な事態が発生しています。世界の軍事費が377兆円(そのうちアメリカが3分の1)と莫大なものです。実に嘆かわしいことが続いています。
日本の現在地は…
かつて経済大国と呼ばれた我が国は、OECDの中で、経済と文化の各種の指標が下位に落ち込み、例えば1人当りのGDPは22位です。家計の金融資産は2179兆円(現金・預金はその半分)ですが、国債残額は1081兆円で、GDP約250%と、敗戦時よりひどいのです。将来、我が国はどうなるでしょうか。このままでは全く不安です。
このような事態に陥った原因(バブル経済、規制緩和、国内経済の空洞化、アベノミクス)について総括が必要ですが、全く行われていません。一方で今行われていることは財政出動と軍備拡張(軍拡)です。2025年度の歳出115兆円のうち28兆円が国債費に回されます。米国などの金利が4%以上に対し日本が1%程度であれば、円安が進んで物価高になることは自明です。低金利政策は、物価高を招き国民の財産を奪うことになります。一向に賃金は増えないのに物価ばかり上がる状況に、国民は本当に苦しんでいます。
日本のゆくべき道は…
「ピースあいち」に集う私たちが何よりも危惧するのは、やはり軍拡の問題でしょう。2025年の軍事費は8兆7005億円です。対GDP比1%だったものが2%へ、さらにアメリカは3%を要求しています。これまで、我が国は専守防衛で海外派兵禁止政策をとってきました。政府はこれを転換して、海外での限定的な集団的自衛権の行使容認、敵基地攻撃能力保有、軍事費倍増を進めようとしていますが、こうしたことを実現するには、日本国憲法がいろいろな面で“邪魔”になります。
改憲を党是とする自民党の改憲案には、戦後日本がアップデートしてきた価値観を、まるで逆回転させるような復古調の言葉が並んでいて驚かされます。また、彼らが新設をもくろむ「緊急事態条項」を、大地震や巨大台風などの自然災害への緊急対応法案だと誤解している人も少なくないように感じます。しかし、つい先日韓国で起きた戒厳令をめぐる混乱を見れば、「緊急事態条項」の真の目的や危険性が想像できると思います。
言うまでもなく、自民党の改憲の本丸は、自衛隊を明記し、日本国憲法9条を削除あるいは無効化することです。残念なことに、9条を大切にする立場に対して、「お花畑の理想論」「現実を見ろ」と嘲笑する人が少なくありません。それでは、尖閣諸島、竹島、北方領土をめぐって戦争も辞さないような態度が、日本の取るべき「現実的な」道なのでしょうか? それに伴う犠牲を「現実」として受け入れるつもりでしょうか?
ノーベル平和賞を受賞した日本被団協は、命を削るように被爆の「現実」を語り続け、核廃絶を求め続けることで世界の尊敬を集めています。同様に、戦争が行き着く先の破滅という「現実」を直視して非戦を誓った日本国憲法前文と第9条は、我が国のみならず人類の将来を見据えた優れた指針であります。戦後80年の今年、私たちは自信を持って、この理念に向かって行動を続ける一年にしたいと思います。