「沖縄から平和を考える」 ~ 沖縄訪問記

ボランティア  牧野 修三





 沖縄慰霊の日(6月23日)前後にピースあいちで毎年開催されている沖縄展に、昨年初めて関わったことをきっかけに沖縄を訪問してきました。観光目的で沖縄を訪れたことはありましたが、「学び」や「調査」を目的とした訪問は初めてでした。
訪問にあたっては、
1.沖縄戦の経緯をたどる 2.沖縄戦終結から近年に至る沖縄の苦悩を知る 3.沖縄の今を知る という三つのテーマを掲げ、できるだけ「うちなんちゅ(沖縄人)」から話を伺う、情報を得る、ということを念頭に置いて、昨年末に1週間滞在して39箇所を巡ってきました。
 いずれの場所でも受けた印象は強烈で、実に多くのことを知り考えさせられました。語るべきことは多々ありますが、ここでは「1.沖縄戦の経緯をたどる」について感じた事の一部をご紹介します。

 1945年4月1日に沖縄本島に米軍が上陸後、およそ3カ月にわたる日米両軍の死闘は、沖縄の風景を一変させ、軍民およそ20万人が亡くなりました。中でも、米軍が日本軍を追い詰めながら南部へと侵攻していく過程では至る所が戦場となり、日米両軍のすさまじい攻防戦の場と化した土地から逃れ避難を重ねる途上で多数の住民が犠牲になっています。
  (沖縄平和祈念資料館HP 平和学習 「沖縄戦について」 https://x.gd/V4Dzn

沖縄中部から南部への米軍の進撃ラインと主な訪問地 (月日は全て1945年)

 今回、この沖縄本島中部から南部への米軍の進撃ラインに沿って戦争遺跡を訪ねました。ここでは二つの例をご紹介します。 

読谷村波平地区「チビチリガマとシムクガマ」
 米軍上陸地点となった読谷村波平地区の住民が避難した二つのガマ(天然洞窟)。
 チビチリガマでは「集団死」がおこって避難者約140人の内83人が犠牲に、ごく近くのシムクガマでは、住民の中にいたハワイからの帰国者2人が「アメリカ人は人を殺さないよ」と、避難者たちを説得して1千人前後の避難民の命が助かったという場です。 (読谷村観光協会 https://x.gd/iJhUt

チビチリガマ
シムクガマ

 これらのガマを覆い隠している草木は当時なく、避難したガマからは迫りくる米兵がよく見えたということを知りました。ガマ近くの場所からは「米軍の軍艦で海がびっしりと埋まった」という米軍が上陸した海と浜を見渡すことができました。追い詰められた住民たちの恐怖と混乱、その後の行動を想像するに余りがありました。
 一方では、この悲惨な犠牲の場となった読谷村波平地区というのは、沖縄戦で戦場となった地域全体から見ると、ごく微小な範囲に過ぎないという事です。沖縄の至るところで、有名なところ以外にも、名もないところで、同様な悲劇が無数にあったことが容易に想像できました。

うちなんちゅの父が避難した「名もない岩陰」
 日本軍が米軍に追い詰められて南部へ敗走していく過程で陸軍病院の分室が置かれた糸数アブチラガマ、その有名な戦跡の近くに行った時のことです。案内をお願いしたうちなんちゅが目の先にある森を指して、「当時、あそこの岩陰に自分の父が親や兄弟と一緒に隠れていたら、日本兵に見つかって追い出され殺されかけた。」と静かに語りました。その後に訪れた糸数アブチラガマの中に実際に入って、ガマの暗闇の中で600人以上の負傷兵で埋め尽くされたという当時の状況を聞く体験も強烈でしたが、うちなんちゅから聞いた「名もない岩陰」での出来事が頭から離れることはありませんでした。
  (糸数アブチラガマ https://abuchiragama.com/

 以上の体験を通じて改めて思ったことです。
①知られている戦跡・記録というのは「点」であって、全体のごく一部に過ぎない。実際には広大な「面」がある。「みえていない」「伝えられていない」ことは膨大である。
②戦争を語る場合、「自国」と「敵国」、「自軍」と「敵軍」という対立する二者を軸に描かれるのが常である。しかし「そこに暮らしている人々」も第三者として必ず描かれるべきである。否、常に最も理不尽な被害をこうむるそれらの人々こそ、本来は主役として描かれるべきである。
 沖縄戦では、沖縄という「美ら土地」で暮らしていた「うちなんちゅ」、太平洋戦争全体に目を向ければ、戦場と化したアジアの国々で平穏に生活していた「各国の国民」、現在、様々な場面で議論される「自衛」について言えば、交戦の場となり得る地域に暮らす住民たち。
 こうした本来の「主役」たちが議論の対象から軽んじられ無視されてきたことは、本質的かつ重要な問題であり、悲劇を繰り返し生み出してきた温床にもなっていると思います。ピースあいちなどで「平和活動」に関わるうえで、この様な視点を決して忘れてはいけないと強く自戒しました。

平和の礎 (平和祈念公園) https://x.gd/ADADT