ピースあいち訪問レポート
訪問日:2024年11月6日
参加者:学生14名、引率者2名
名城大学 経営学部 国際経営学科 准教授 西野 亮太
名古屋学院大学 外国語学部 講師 長谷川 和美
本訪問の目的は、戦争の歴史とその記憶がどのように保存され、また伝達されているのかを学ぶことにありました。具体的には、ピースあいちが戦争の記憶をどのように人々に伝えようとしているのか、また、展示内容を通じて、戦争の歴史が誰の視点(被害者、加害者、傍観者)から語られるのか、個人や地域の記憶と、国家レベルで共有される「集団的記憶」との間にどのようなギャップがあるのかを、事前に輪読した資料を基に考察を深めることも目的としました。
なお、今回の訪問は筆者が担当するゼミナールの合同開催とし、多くの学生たちはピースあいち初訪問でした。
西野ゼミにおいては、歴史記憶とその継承に関する研究を進めております。2024年5月から6月に名城大学図書館内で開催された名古屋空襲に関するパネル展示を拝見し、是非ともピースあいちを実際に訪問し、展示を通じてより深く学んでほしいと考えました。
長谷川ゼミの2024年度秋学期では、“The Politics of War Memory”(「戦争の記憶の政治学」)をテーマとして、第二次世界大戦が日本を含め、各国でどのように記憶されてきたのかを考察しています。特に、ローカルな地域としての名古屋の地において、どのような記憶が保存されてきたのか、戦争資料館の展示を通し、分析を試みています。
訪問当日には、特別展示「戦争の中の子どもたち」および「戦争と動物たち」が開催されておりました。
学生たちは、実物資料、写真、証言映像など多様な形式で展示されている資料を観察し、戦争の現実に触れることで、歴史の実態を実感する貴重な機会を得ました。特に、焼夷弾の部品を手に取る体験や、戦時中の警報音を聴くことができる展示など、体験型展示が非常に印象に残ったとの声が多く挙がりました。さらに、当時の恐怖や困難を感覚的に伝えることへの理解が深まったという意見もありました。
一方で、展示が「被害者」の視点に偏りがちであったという指摘もありました。
例えば、空襲の被害や市民が直面した困難については充実した資料が展示されている一方、日本が他国に対して行った加害行為については、限られた情報しか含まれていないという意見も見受けられました。
しかしながら、この点はいくつかの問題提起をしているとも捉えられます。例えば、なぜこのような差があるのか、その差が人々や集団の記憶にどのような影響を及ぼすのか、などの過去から現代、そして将来につながる多くの質問が浮かんできます。
展示を通じて、学生たちは公式の「集団的記憶」と、個人や地域の記憶を比較した際、同調するナラティブがあったり、また、大きなギャップが存在することを認識しました。
例えば、国という団体目線では、「被害者」である視点のみが強調されるケースがあったり、異なる点としては、展示された資料は名古屋市およびその周辺地域に特化した内容が多く、地域住民が受けた戦争の影響を学ぶことができました。これにより、全国的な視点や、国際的な歴史観との対比が可能になったと感じた学生が多くいました。
訪問後半には、名古屋空襲や疎開生活を経験された戦争体験者の講話が行われました。語り手は、自身の体験を「被害者」の視点で語る一方、当時の社会状況や日本が置かれていた背景についても補足的に情報を提供してくださり、学生たちは個人の記憶と集団の記憶との「ズレ」を実感するとともに、個人の体験を後世に語り継ぐことの重要性を強く感じました。
今回の訪問を通じて、学生たちは戦争の記憶を多角的に捉える重要性を再認識しました。
国家が提示する「歴史の物語」が地域や個人の記憶と一致する場合もありますが、常に一致しないことを理解し、その差異を探求することが平和教育や歴史研究における重要な課題であることを実感しました。
また、記憶の風化を防ぐためには、ピースあいちのような草の根レベルでの活動が欠かせないことを認識し、今後のゼミ活動でも、博物館など歴史に触れる場所を訪れ、歴史記憶が人々の知的活動と密接に結びついていることを学んでいきたいと考えております。
末筆ながら、私たちを温かく迎え入れてくださったピースあいちのボランティアの方々に、心より感謝申し上げます。