夏の特別展 「マンガと戦争」
運営委員 下方 映子

                                           
 

 日本のマンガは今や「MANGA」として世界中で多くのファンを持っています。京都の中心部にある「京都国際マンガミュージアム」は、来館者の3割が外国人だといいます。2015年、このミュージアムで開催されたのが“元祖”『マンガと戦争展』でした。会期も残り少なくなったある日、私はこれを見るために京都を訪れました。
 廃校となった小学校の校舎を丸ごと活用した館内は、廊下を歩きながら(元)教室を回遊する動線と、迷路のような展示デザインが相まって、一種不思議な異界感覚を呼び起こします。「戦争マンガ」という共通項で選ばれていても、必ずしも有名作家の作品ばかりではないマニアックなチョイス。多くの戦争マンガが独自の切り口で比較展示された様子はとても新鮮で、「いつかピースあいちでもやれたらなあ」と思いつつ帰ってきたのでした。

展覧会場の様子1

 それから早くも10年近くが経ち、とうとうこの夏の企画展として実現することになりました。さっそく企画展チームを立ち上げたものの、マンガに関する圧倒的な知識不足は否めません。そこで、第一線のマンガ研究者であるイトウユウ氏に来ていただいて、まずはレクチャーを受けることに。
 戦争マンガというカテゴリーの作品から、必ずしも反戦平和の教訓が導かれるわけではなく、いわゆる“ミリオタ”的興味を満たすコンテンツであったり、ドロドロの情欲や怖いもの見たさを刺激する作風であったりと、表現される世界は本当に広いことを知りました。「マンガの殿堂」である人気ミュージアムと戦争資料館であるピースあいちとでは最初から環境設定が異なるけれども、館の個性を生かした展示は可能なはず! そこから準備が始まりました。

 今回の企画展では、「原爆」「特攻」「満州」「沖縄」の4テーマ16作品を軸に構成します。それぞれの作品の展示解説に加え、マンガミュージアムから秘蔵の実物資料をお借りして展示します。誰もが知る名作もあれば、「あの人がこんな作品を!?」という驚きもあるかもしれません。
 また、当地名古屋を舞台としたおざわゆきさんの『あとかたの街』、さらに、若い世代の絶大な支持を誇る汐見夏衛さん原作『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』もご紹介する予定です。

 

 戦後80年も間近。これからは「直接体験のない人ばかり」という状態がデフォルトになってゆきますが、人間にはそれを補う想像力と創造力があります。この夏は、マンガの世界を入り口にして戦争を見つめ直してみませんか。