2023年度沖縄展に寄せて◆「沖縄から平和を考える」―南西諸島の軍事要塞化
NPO法人平和のための戦争メモリアルセンター理事 阪井 芳貴
この原稿をしたためている今、宮古島北方では墜落事故を起こし海中に沈んだ陸上自衛隊のヘリコプターの機体の捜索と乗員の救助活動が行われています。墜落現場の特定や機体の捜索は難航し、ようやく発見してからも作業は難航しています。もちろん人道的な観点からは、一刻も早い乗員の救助が求められるのですが、いっぽうで、自衛隊配備開始後まもなくこのような事故が起きたことへの批判や不安の声も小さくはありません。
この事故が陸上で起きていたらどうなっていたか、事故原因の究明や情報公開はきちんとなされるのかどうか、などなど。さらに、機体の捜索や乗員救助のために派遣された自衛隊員が沖縄県立宮古青少年の家を宿泊地としたことにも疑問や批判の声が集まっています。人道ならびに軍事関連を前面に出し、自衛隊の活動をなし崩し的に拡げていくのではないかとの懸念をぬぐえない市民・県民も少なくありません。
今回の事故は、まさに国の南西諸島の防衛強化という名目による軍事要塞化がもたらしたものとも言えますし、事故後のさまざまな動きからは、自衛隊配備をめぐり不安視されていたことが現実化したことを市民県民に示したとも申せましょう。今後の国の対応を注意深く見守る必要がありそうです。
2016年に開始された与那国島への自衛隊配備を皮切りに、戦後70年近く自衛隊基地が存在していなかった島々に次々に基地が建設されています。その背景には、相次ぐ北朝鮮が発射するミサイルの脅威、日常化した中国艦船の沖縄付近の領海への侵入、東シナ海・南シナ海への中国軍の進出、ロシアのウクライナ侵攻、そして最も懸念される事案のように語られる「台湾有事」があることは明白です。
そして、当初は表だっては提示されていなかった敵基地攻撃能力のあるミサイル基地としての性格も、上記のような背景を利用して、いつのまにか当然のように予定されるに至っています。
しかし、沖縄県内紙はすでに2004年には、敵基地攻撃能力のあるミサイル配備について警鐘を鳴らしていました。つまり、国は当初から南西諸島のミサイル基地化、軍事要塞化をもくろんでいたことがうかがえるのです。
宮古島の自衛隊基地 (東アジア共同体研究所 琉球・沖縄センター提供)
今年のピースあいちの沖縄展は、このように着々かつ急ピッチで進められている南西諸島の軍事要塞化の実態を正確に把握するべく、新たに解説パネルを作成し、準常設展として作成したパネルと合わせて「沖縄から平和を考える」と題して企画いたしました。
なかなか本土では沖縄の島々への自衛隊配備の状況、基地建設の実態などが詳細に報道されることはありません。また、この状況をめぐる沖縄県民、島人の受け止め方や懸念、不安について報じられることも稀です。
今年の沖縄展は、そこに焦点を当て、南西諸島の軍事要塞化を自分事として考えられるようにしたいと考えています。
沖縄戦において「捨て石」とされた沖縄が、今また同様の位置づけをされることに対する沖縄県民の不安や怒りを共有できればと思います。昨年は日本復帰50年という節目の年で、沖縄にスポットライトがあたることも多かったのですが、それから一年後の今年は、沖縄の実態を直視する機会は少なくなってしまいました。どうか、多くの方々にご覧いただきたいと期待しています。
旧日本軍小禄飛行場高射砲 (筆者撮影)
なお、沖縄展開催期間中、2階のプチギャラリーでは「沖縄の戦争遺跡」写真を展示します。新たな戦争遺跡をつくらないために、78年前の沖縄戦を知ることはとても大切であると考えています。筆者が撮りためた写真から選んだ20点ほどを展示します。
また、関連企画として、映画「沖縄スパイ戦史」の上映会と、筆者による講演会と沖縄戦体験の語り継ぎの会を準備しています。合わせてご参加くださいますよう、お願いいたします。