◆山県市での「平和学習」展の意義
岐阜県山県市歴史民俗資料館文化芸術管理監 春日 寿朗
岐阜県山県市で昨年度に引き続き「平和学習」展を令和4年1月28日から2月18日までの22日間開催しました。「平和学習」展のテーマは、「悲惨な戦争と平和の尊さ」としました。15年もの長きにわたって続いた戦争は、国によって「聖戦」「正しい戦争」と美化されてきました。国民はその美化された戦争に総動員されていきました。
子どもも例外ではありませんでした。軍国主義教育による「小さな皇国民」育成一色となったのです。子どもはもう子どもではなく、少国民と呼ばれ国のために尽くすことが求められました。子どもたちから平和な日常を奪いさった戦争、子どもたちから笑顔を奪いさった戦争、子どもたちから家族を、そして命を奪いさった戦争とはどういうものだったのでしょうか。当企画展では、戦時下の子どもたちに焦点を当てることで、戦争の悲惨さと平和の尊さについてよりクローズアップできるのではないかと考えました。
小学6年生の児童を対象にした平和学習会
子どもたちに焦点を当てる理由にはもう一つあります。山県市の小中学校の児童生徒がこの企画展を見学します。同世代の子どもたちが戦時下でどのような生活を強いられ、どのような思いで過ごしていたのかを知ることでより身近なこととして戦争をとらえ、平和の尊さについて学ぶことができると考えたからです。
当企画展を開催するにあたって「戦争と平和の資料館ピースあいち」様には、ご助言と資料借用などのご協力をいただいています。借用した史料の中でも、「岐阜県美濃町安毛集団疎開記念 生活いろはかるた」は名古屋市から美濃市(山県市の東に隣接する市)に集団疎開した子どもたちの心情を綴った地元ゆかりの史料として、来館者の心を打つものでした。
美濃への疎開時に作った「生活かるた」を見て、当時の子どもたちの言うに言えない心情が伝わってきて、ジーンとしてしまいました。戦争に対して文句が言えない時代であったけれど、子どもたちはつらい、さみしいという当たり前の感情をもっていたのだと改めて実感しました。生の声が聞けるよい資料だと思います。 (来館者の感想より原文)
「疎開記念生活いろはかるた」を見る疎開先だった
永昌院のご住職(中央)とご家族
新聞やNHK岐阜放送局にも取り上げられ、その後、美濃市からも報道を見て多くの方々が来館されました。疎開先だった永昌院のご住職やそのご家族の方々も来館され、集団疎開した当時5年生男子児童の生活の様子をお話しくださいました。食糧事情が悪い中でもたくましく生き抜く姿を聞くことができました。
当企画展の準備段階で、地元の戦争証言など資料化するにあたって、戦争を体験した方々が次第に減り、直接お話を聞くことが難しくなっていることを痛感しました。それは社会で共有すべき「戦争の記憶」が薄らいでいくことに他なりません。当時の史料を通して戦争の悲惨さを伝え、真の平和を願う心を次の世代に受け渡していくことが私たちの世代のつとめだと考えています。
また現在(2022年3月4日)、ロシアによるウクライナ侵攻の収束が見えず、被害が拡大し、国際社会が懸念する事態となっています。他国の主権を武力によって踏みにじることはあってはならないことです。このような情勢の中、「平和学習」展を開催する意義はますます大きくなっていると考えます。
戦争で傷ついた人たちの話や記録などを知って、戦争は絶対にやってはいけないなと思いました。今までのように戦争のことについての話を語りついで、これからも戦争がない国にしたいと思いました。そして、毎日平和があることを常に感謝して生きたいなと思いました。 (見学した6年児童の感想より原文)
戦争は、正しい戦争として美化されてきたと知ったとき、本当に何言っているのかわからないと思うほどの衝撃があった。ただぎせいを生むだけなのにと思った。そして「お国のために」というのも不思議でしかたなかった。戦争以外の方法で、問題を解決できなかったのかと思う。 (見学した6年児童の感想より原文)
今後も当館では、学校教育との連携を図り、子どもたちが平和の尊さを実感し、子どもたちの平和を願う心を育てる「平和学習」展を継続していきたいと思います。