「あとかたの街」を導入にして「少女たちの戦争展」を観る
運営委員  熊本 亮子

                                           
 

 ピースあいちでは、どうしたら若い世代に戦争の悲惨さや平和の大切さを伝えられるかを、夏の企画展では特に考え抜いて取り組みます。夏休みに来館する小中高生が関心を持ちやすいマンガや絵本は、とてもその助けになります。
 「はだしのゲン」「いわさきちひろ展」「水木しげる」などは大変好評を得てきました。それらは原爆や空襲、戦場を体験した人が作者であり、真実の伝え手です。体験を物語にして作品とするときに、主人公は作者の分身でもあります。そのキャラクターが読み手を引き付け、戦争を体験していない若い読者を引き合わせてくれます。
 「あとかたの街」は以前に連載中の節目節目に区切って「複製原画展」としてご覧いただきました。今回も講談社とおざわゆきさんの多大なご協力で、コミック全5巻から15場面を選び出しました。

展覧会場の様子1
展覧会場の様子1

 

 竹槍を持ち敵と戦うことを想定した学校の軍事教練。厳しく叱咤される体錬がイヤでたまらなかったあいちゃん。学校ごとに動員先が決められて、大きな軍需工場へ配置されたからといって自慢になるわけではなく、アメリカ軍の空襲の恐怖にさらされおびえる花ちゃん。戦争に勝つための教育がすっかり身にしみ込んで、敵国と戦う意識に満ちた軍国少女となっていった節ちゃん。少女たちの日常は三者三様に戦争に絡めとられていきました。

 

 マンガの少女たちの印象的な場面は、後半の女学校にいた女学生たちに起こった出来事へと重なります。少女たちは軍需工場で兵器生産にあたり、技術も知らないほんの子どもたちが加害行為の一端を担っていました。そしてその上に爆弾が降り注いだ―。
 少女たちの憧れや将来の夢は打ち壊されていきました。残された日記や手記の中に花ちゃんや節ちゃんのような少女がいたのかもしれません。

展覧会場の様子1展覧会場の様子1

 

 では、あいちゃんは?
 マンガの最後のほうの場面が浮かびます。敗戦を知らせる玉音放送が流れ、「勝てるはずないって…」「私達 前から知ってた」と、ひとりつぶやくあい。このつぶやきは、当時としてはけっして大きな声で言えない本音です。
 あの時あの場で口にするのは随分異質な存在だったのでは、と思います。ですが、この一言が76年前と今を時空を貫いてつなげる一つの価値観になっているのでは、と思えるのです。
 「戦争に負けるなんて…」「そんなことあるはずない」ではなく、世間の空気と違うあいを感じます。焼夷弾で炎上する家や家族を必死で守ろうとするあいは、確かにとても勇気のあるキャラクターで、戦争に飲み込まれまいとする必死の姿に共感します。おざわゆきさんは反戦を直截に描くのではなく、読者を戦争に抗う側に引き込んだのでしょう。

 名古屋空襲を描いたマンガは、この地の戦争を若い世代に伝える時、何にも代えがたいギフトと言えると私は思っています。主人公の体験に感情移入しながらコマの場面をイメージできます。
 「12歳の少女が見た戦争」は、「少女たちの戦争展」後半で、さらに様々な記録や資料によってよりリアルに迫ってきます。
 どうぞ少女たちに会いに来てください。