◆所蔵品から◆資料ナンバー9443 『冬季陣中必携』の話
資料班
『冬季陣中必携』 1941年11月
7月も終わりに近づき、暑くなってきました。
「暑い」とばかり言っていても涼しくはならないので、今回は逆に「寒い時の備え」をご案内してみようかと思いました。
『冬季陣中必携 兵用』。表紙によると「昭和十六年十一月 関東軍司令部」の発行です。
関東軍は中国大陸で活動した日本の軍隊です。今でいう中国東北部、寒冷地での軍隊の活動の注意点をまとめた小冊子です。
『冬季陣中必携』 目次
目次をご覧いただきます。
服装・装備の注意点、行軍・幕営(外でお泊り)の時の注意点の後に続いて、「満人家屋利用の注意」・「『ロシヤ』家屋のペーチカ利用上の注意」、と続きます。
現地の人の家を「利用」するって、さらりと書かれていますが、
住んでるところに入り込むのですよね。
続いての章は「給養」(食事など)、最後の、多くのページを使っている章が「凍傷予防」です。
『冬季陣中必携』 緒言
目次に続く「緒言」(まえがき)です。
いきなり「凍傷(シモヤケ)」の話。
引用しますと、「内地のいわゆる凍傷(シモヤケ)すなわち満洲の凍傷なりとするは甚だしき過誤なり」。
同じシモヤケと思うなよ、ということですね。
結びは、
「常住坐臥身辺より離さず酷寒を克服しての御奉公に欠くることなかれ」となっています。
(かたかなと一部の漢字をひらがなにしてあります。以下同様)
『冬季陣中必携』 第一 被服著装上の注意
「第一 被服著装上の注意」の途中のページをご覧いただいています。
最初の小さい文字は、(靴下)3枚以上はかえって凍傷の原因に、という内容です。
次の五、「眼簾」は雪のまぶしさを防ぐのと顔面の凍傷予防に有用。眼の簾(すだれ)と書いて「眼簾」。遮光めがねのようなものでしょうか。
六、完全な装備以外に有効ないろいろ。
・袖と手袋のすき間の手首に布を巻く
・新聞紙をたたんで「胸部及び背部に各々一枚」
・耳内に脱脂綿
・防寒頭巾の開口部の下部に手ぬぐいを縫い付け、鼻まで覆う
・騎乗、乗車(乗橇)間は足の保温をしっかり。
、というようなことが書かれています。次のページには足の保温に唐辛子(胡椒)を使うことも書いてあります。
「乗橇」という言葉が出て来ます。木へんに毛が3つで「そり」です。雪上の移動は「そり」が使われていたようです。
『冬季陣中必携』 第二 行軍上の注意
続けて「行軍上の注意」です。最初のほうは、靴は濡らすな凍らせるな底についた雪は落とせと書かれています。足元は大事。
居眠りしない、急に火に当たらない、という注意の後は、水に落ちないように、(落ちたときは)、という話になります。
氷の上に立とうとすると氷が割れて危ないので、水中から出るときは横転して氷上に上るのだとか。
ついでに「第三 幕営上の注意」の話もしますと、場所の選定、火の取り扱い、靴の手入れなどの注意があるのですが、最後の注意書きは、空の飯盒を暖炉の上に置かないように。「溶解して原形をとどめざるに至る」。熱で溶けて変形するからだって。
『冬季陣中必携』 第四 満人家屋利用の注意
『冬季陣中必携』
第五 「ロシヤ」家庭のペーチカ利用上の注意
第六 給養
第四、第五は現地の家の暖房器具の使い方。ざっくり説明しますと「温突」(オンドル)と「炕」は、床を暖め、「ペーチカ」は壁を暖める。どちらも火加減とガス中毒(おそらく一酸化炭素)に注意。
第六「給養」は、食べ物飲み物。
・温かい食べ物、飲み物が大事。
・予備を多めに持つこと。携帯糧食を使いつくしたため、「凍死の因をなしたる実例少なからず」。
・水がない時は雪を解かす。そのまま雪を食べるのはNG。
『冬季陣中必携』 第七 凍傷予防
「第七 凍傷予防」
「凍傷予防の要訣」は「寒冷、湿潤、血行障碍及び給養不全の排除に勉むるにあり」です。
外に出るところは覆う、濡れたら乾かす、マッサージをするなど具体的に書かれています。
「放尿は必ず風向きに反して行うこと」も凍傷予防に大事だそうです。そのあとボタンを忘れずはめることも大事だそうです。
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