丸木位里・俊「原爆の図」と大津定信展に寄せて◆大津定信さんの絵の迫力に圧倒される 
ボランティア 野田 隆稔

                                           
 

 2018年夏、栄の地下にあるセントラルギャラリーで、名古屋在住の大津定信さんの個展が開かれました。
 私は大津さんの経歴を全く知らず、観に出かけました。広島・長崎・沖縄をテーマにした194×162㎝の巨大な絵など16点と、作品に込めた思いを綴った詩や資料写真も展示されていました。まず、字の美しさに驚きました。そして、絵の何かを訴え、人を引き込む迫力に圧倒されました。後で調べてみたのですが、大津さんは書道家として出発し、現代美術に進んだのだそうです。

展覧会場の様子1

大津定信 「ヒロシマ、ヒロシマ、ヒロシマ」

 ヒロシマを描いた絵は全体的に黒を中心に描かれています。『黒い雨』は黒い雨の下にいくつかの頭部だけが描かれています。顔の表情が歪んでいます。こんな詩がそえられています。「――略―― 被爆者の顔に悪魔の雨が落ちた。 悪魔の雨は、被爆者の手に顔に・・悪魔の雨は、情け容赦もなく 被爆者に降りかかった。 黒い雨・・黒い雨・・黒い雨・・ 地獄の死者・・・・・」
『被爆者の肖像』では、眼の中に亡くなった被爆者の写真が貼られています。
「――略―― 光る閃光、 悪魔の炎が荒れ狂う 瓦が木々が火を噴きながら 天空に舞い上がる。 悪魔が姿をあらわした。 悪魔のキノコ雲 ――略――」
 私は『死の断層』という、小笠原父島の砂を一番上に、ヒロシマ・元安川の砂、オキナワ・喜屋武岬の土、ナガサキ・平和公園の祈りの小石、オキナワ・読谷村の砂まで12層の戦地の断層を描いた絵に引き込まれました。大津さんの発想のすごさに驚嘆しました。

 

 ニューヨーク同時多発テロが起きた翌年の2002年、ニューヨークを訪れた大津さんは「無差別・無抵抗の殺人」をテロと言うなら、「生きるものすべてを焼き尽くした原子爆弾の投下こそ人類最大のテロだ」と考え、広島・長崎の作品を作り始めます。
 11月23日~24日まで来日したフランシスコ教皇は、「武器の開発はテロ行為です」「戦争目的での原子力の利用は倫理に反します。核兵器の所有も倫理に反します」「真の平和とは、非武装の平和以外にはありえません」と、訴えました。大津さんの願いと同じです。

 
チラシ未

丸木位里・俊「原爆の図」と大津定信展 チラシ

 大津さんは広島の絵を書くために、広島を訪れ、広島平和祈念資料館の協力を得て、被爆者の悲惨な状態をよく知っている原爆ドームの横を流れている元安川の水と土や砂を入手し、平和公園の樹木で作った炭などをベニヤ板に張り付ける手法で、ヒロシマの怒りと悲しみを表現したそうです。

 今回の展示会を開くため、大津さんにお会いし、お話しをしましたが、82歳とは思えないほど、お顔の色艶もよく、お元気で闊達でした。
 今回の「ピースあいち」の丸木さんの「原爆の図‐火」・大津定信展では、大津さんから『ヒロシマ・ヒロシマ・ヒロシマ―』『黒い雨』『消えた足跡』『被爆者の肖像』『砂に埋もれた十字架』の5点をお借りし展示します。ぜひご観覧ください。

 丸木位里・俊「原爆の図」と大津定信展―核兵器のない世界のために
 と き 2020年2月4日(火)~3月28日(土)
 ところ ピースあいち 3階展示室

  参考資料 2018年7月31日 朝日新聞朝刊・2018年8月7日 朝日新聞朝刊
  『大津定信詩画集』ヒロシマ・ナガサキ・オキナワ・環境