平和のバトンを継ぐ瑞々しいランナーたち◆~東邦高校美術科ギャラリートーク報告
ボランティア 下方 映子
今年の空襲展「8分間で奪われた2000人のいのちー熱田空襲」の目玉の一つは、東邦高校美術科の生徒さんたちの作品を展示したことでした。もともと平和教育に熱心な同校ですが、美術科を指導する小塚先生が、美術科ならではの関わり方があるのではないかと考え、当館の語り手・中野見夫さんの体験を聴いて、生徒全員が戦争と平和に関する作品を制作するという初めての試みが始まったのです。
昨年7月に中野さんが同校を訪れ、40人の生徒を前に、熱田空襲の体験を語りました。人間の原型をとどめない無残な死体が転がる、言葉に出来ないような惨状。そこから生徒たち一人一人がイメージを膨らませて作品に仕上げてゆきました。
昨夏の企画展では、広島県立基町高校の『原爆の絵』を展示しました。基町高校の取り組みは、高校生が被爆者と一対一のペアを作ってその体験を聴き取り、一年かけて忠実に絵画化するものです。その素晴らしさは、語りそのもの、あるいはそれ以上の臨場感にあります。これに対して、今回の東邦高校美術科の作品は、全く違う種類の「伝える力」に溢れていました。中野さんの体験そのままの描写はほとんど見られず、若いイマジネーションが自由に羽ばたいた、極めて個性的な作品の数々です。
3月16日には、10人の生徒さんがギャラリートークをしてくれました。
特に印象に残った言葉をご紹介します。
「実感できない戦争そのものを無理に表現するのではなく、格差やいじめに苦しむ身近な人たちに思いを寄せたい。自分の幸福のイメージを表現した。」
「爆撃する側とされる側の断絶を表現した。現代の戦争は、もっと罪悪感のない非人道的なものになっている。」
「戦争画は、グロテスクなものが多く迫力と圧があるので、見るのがつらい人もいる。自分は、明るくポップなもので戦争を表現してみたかった。体験を聴いて自分を無知だと思った。僕は、戦争を起こさない鍵はメディアにあると考える。公正な報道は難しい。受け手の僕たちが簡単に惑わされることなく、客観的な目で報道を見ることが大事。」
「戦争で苦しんだ動物や女性を描きたかった。」
「自分の作品のモチーフは『手』。戦争も何もかも私たちの『手』が起こし、止めることが出来るのもまた『手』であるから。」
「戦争中の子どもたちのポスターはふくよかで血色が良くきれいな服を着ているが、本当はそうではなかったはず。プロパガンダではない本当の姿を想像して描いた。」
「正直に言うと、自分は作品を作りたくなかった。どうしても戦争の話題となると、日本人が一方的に被害を受けたような描写ばかりを取り上げるから。私はそれが好きではありません。日本は今後戦争をしないためにも、自らの国が犯した事をもっと多く伝えるべきだと思う。」
戦争の体験は正直自分からは遠いものだけれど、大切なメッセージを何とか感じ取りたい、自分なりに表現したい、平和のバトンを受け取って走りたい―――。瑞々しい次世代のランナーたちのそんな真剣さが来場者の胸を打ちました。