◆所蔵品から◆資料ナンバー5743 紙芝居「母さん部隊長」の話 資料班
「母さん部隊長」表紙
今回は、昭和14年(1939年)発行の紙芝居、「母さん部隊長」を紹介したいと思います。
表紙には「大蔵省 国民貯蓄奨励局指導後援」とあります。
めがねで和装の女性が「貯蓄と節約」と書かれた旗を持っています。文字と重なっていてわかりにくいのですが、黄色い星のマークのついた軍用の鉄かぶと型の帽子をかぶっています。
貯蓄と節約の部隊長はお母さん、という話なんですけれど、
オープニングはこんな感じ。
「男ばかりぢゃ戦へぬ
銃後のまもりがあればこそ
貯蓄と節約わがつとめ
家も富ませる、国まもる」
「適宜のにぎやかな節をつけても可」だそうです。
この紙芝居は、ただ紙をめくっていくだけではなくて、話の途中で絵が変わる仕掛けがあるのが、面白いと思ったのです。
「母さん部隊長」
春江(いちばん上の娘)が出かけるシーン。すぐ後に彼女の叔母が訪ねて来ます。
台紙に切り込みが入っていて、そこに紙を差し込んで固定してあって、話の途中で紙を引き抜いて絵を変えるのです。
昭和14年(1939年)というと、真珠湾攻撃の1941年よりも前で、いかにも戦時中という切り詰めたイメージとは少し違うのです。春江さんも、きれいな色の洋服で出かけていきます。
「母さん部隊長」
春江の結婚相手について春江の父母と叔母が話すシーン。
黄色い壁が
→「貯金」の腕章をしたグレイの服の人物(春江の結婚相手の父。あだ名は貯金爺さん)に
→さらに軍服の青年(手には貯金通帳。隊にいて貯めた貯金が200円近くになった。)に、と変わります。
春江の結婚相手は、軍で貯金をして元気で帰ってくるのです。
200円っていくらぐらい?というと、当時はあんパン1個5銭というあたりから考えると、2000倍ぐらいでしょうか。
「母さん部隊長」
「第一回の家庭戦時会議」の様子。
父「お酒を減らします」
春江「着物を新しく作らず、古いのを繕うようにするわ」
弟「鉛筆やノートを無駄にしない」
妹「糸くずや何かを集めるといいと思うわ」などと話し合うところで、窓のところにそれぞれに合った絵が浮かぶようになっています。
天井から下がるあかりには黒いカバーが付いていません。昭和14年(1939年)には、空襲や灯火管制に対してまだ厳しくなかったようです。
「母さん部隊長」
お母さんが婦人会の集会(?)で演説をするシーン。
「覚悟一つで貯蓄はふへる」(ふへる=増える)の標語をめくると、布を絞っている絵になります。
お母さんいわく、「暮らしというものは濡れ手拭と同じこと、引っぱったのでは何も出ないが、絞ればタラタラチャラチャラといくらでも余分の出るものであります。」
絵をよく見ると、絞って出ているのは穴のあいた硬貨にも見えます。
「母さん部隊長」
もうひとつご紹介したいところは、途中にはさまれる標語というかスローガンというか。
冒頭の「男ばかりぢゃ戦へぬ」もそうですが、そのほかには、
「百億円。
百億円。
戦争に勝つためには、
東洋平和のためには、
どうしても必要な百億円!」
婚約者の父、「貯金爺さん」は、「日本が今年中に貯めねばならん金は、皆で100億円」と話します。
10円札を積むと富士山の20倍以上の高さになるそうです。
「母さん部隊長」
最後は色とりどりのかっぽう着の主婦たち(手には貯金通帳)がそろって、
「では皆で私たちの標語をとなへませう。
一、二、三、
銃後の貯蓄は主婦の手で
銃後の貯蓄は主婦の手で」
……なんか、(だいぶ前のですが)「たんすにゴン」のコマーシャル「亭主元気で…」みたい。
「亭主元気で…」は、1986年の流行語に選ばれています。この紙芝居の1939年から、47年たっても受け継がれているものがあったのか、と、考えました。
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