◆所蔵品から◆ 資料ナンバー2010 古い新聞の話(真珠夫人 その他) 資料班 



 
新聞

大阪毎日新聞 1920年8月11日
菊池寛「真珠夫人 ユーヂツト その七」冒頭

 大正9年(1920年)8月11日の大阪毎日新聞です。
 菊池寛の「真珠夫人」が連載されています。
 「真珠夫人」は、1920年の6月から12月にかけて、連載されていました。この日は、第六十四回「ユーヂツト その七」。

新聞 さし絵

大阪毎日新聞 1920年8月11日
鰭崎英朋による「真珠夫人 ユーヂツト その七」のさし絵


 ユーヂツト(ユーディット)の説明をします。
 ユーディットは、女性の名前です。包囲された町を守るために、敵(侵略者)の親玉に近づき、色香で惑わせて、あるいは酒を飲ませて、油断させたところをやっつける、というような話の主人公です。

 「真珠夫人」の連載のさし絵は鰭崎英朋(ひれざき えいほう)。この回の絵はユーディットがテーマです。 黒髪の女性の立ち姿で、片手に剣、片手に敵将の首。見つめあっているような顔の角度は、ヨカナーンの首を持つサロメみたいでもあります。
 鰭崎英朋は、本や新聞連載小説のさし絵を書いています。日本画の画家で、美人画と相撲画が得意分野です。国定教科書のさし絵も描いています。

 ユーディットの名前に覚えがあったのはなぜかというと、クリムトの作品に「ユディトⅠ」というのがあるのです。絵そのものの迫力と、絵のもとになった物語と、ユーディット(女性の名前です)という言葉の語呂の良さで、印象の強い作品なのです。
 クリムトの絵の説明をもう少しします。(画像は載せていませんので、ああ、あれね、と思い描いたり、どこかで探して見たりしてください。)
 クリムトの「ユディトⅠ」はどんな絵かというと、正面向いた女性の上半身像です。顔のあたりは写真に見間違えるようなきめ細かさと技術の確かさで描かれているのですが、背景や服の模様や首飾りは金色のベタ塗りで、絵というより模様のようです。肌合いのぜんぜん違うものを貼り合わせたみたいな違和感が心に引っかかるのです。 顔が写真みたいに見えるもう一つの原因は、顔の表情にあります。目も口も半開きだし、顔が上向き加減なのでものすごくえらが張って見える。絵のモデルとして表情を作っている感じがしなくて、シャッターを押したらこんな顔撮れました、みたいな生々しさがあります。
 2013年2月11日まで愛知県美術館でやっていたクリムト展では「ユディト」は見ることができませんでしたが、クリムトならユーディットでしょ、ということで、この2月号でご紹介する資料は「真珠夫人」第六十四回「ユーヂツト その七」になりました。

 真珠夫人とユーディットに何の関係があるのかというと、
 主人公の瑠璃子(まだ独身)が、彼女の父親を罠にかけた男性への復讐(ふくしゅう)の手段として、その人からの結婚の申し込みを受けたいと思う、と、自分をユーディットになぞらえて、父親を説得する場面なのです。ユーディットはもと人妻のはずですが、ここでは「美しい少女」になっていて、18歳の瑠璃子により近い存在として書かれています。

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大阪毎日新聞 1920年8月11日「真珠夫人」 ユーディットについて書かれた部分


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大阪毎日新聞 1920年8月11日 広告
上段左から強壮剤ゴスペール・エグロン石鹸 下段2点とも森田屋

 「真珠夫人」の載っていた同じ日の新聞の広告から、女性の絵や写真を集めてみました。1920年(大正9年)の女性の描かれ方を見てみようと思ったのです。

 着物に日本髪が多い。明治でちょんまげは切ったはずなのに、女性の姿は、江戸時代っぽいのです。
 話がちょっと戻りますが、真珠夫人のさし絵の鰭崎英朋(ひれざき えいほう)の描く美人画にも、浮世絵のような女性が描かれています。
 西洋風のスタイルでも、「まとめ髪」というか、アップの髪形にしています。
 8月なので、浴衣(ゆかた)の人もいます。

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大阪毎日新聞広告 1920年8月11日 鐘馗印の藤沢樟脳

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大阪毎日新聞広告 1920年8月11日 純白美乳(ホワイトビニウ)

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大阪毎日新聞広告 1920年8月11日 赤玉ポートワイン

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大阪毎日新聞広告 1920年8月11日 美顔白粉(びがんおしろい)


詳しい画像はこちらからどうぞ。「真珠夫人」第64回も読めます。
http://www.peace-aichi.com/20130223_judith.pdf

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