所蔵品から● 資料ナンバー6235 文化張物器の話   資料班



 家の中で簡単に「張物(はりもの)」ができるという器具です。和服のお手入れで、「洗い張り」というのがあります。着物をほどいて縫い合わせて1枚の長い布に戻してから洗うのです。そのあと、布に貼りつけたり、竹ひごみたいなので布をぴんと張ったりして乾かします。すると、アイロンをかけなくても布が歪んだりしわしわになったりしないのです。今回取り上げる「文化張物器」は、この、「洗い張り」の後半部分の、「布をぴんとさせて乾かす」作業をするための道具です。

 紙の箱に入っています。上から見るとA3のコピー用紙よりちょっと横幅が長いくらいの大きさです。箱の表面はオレンジと黒で、爬虫類の皮のような模様が入っています。箱そのものは段ボール製です。箱のふたになる上面には、「お座敷で手軽に仕上る」「文化張物器」「実用新案特許第一六六七二二号/第二三六六七五号」と書かれたラベルがあります。箱の側面には、丸の中に「井」の字を斜めに傾けたような図柄で、さらにその中に崩して描いた「藤」の字。百貨店の松坂屋のマークです。
 箱を開けてみると、まず、箱のふたの裏に使い方の説明があります。
 本体は木製の台に円柱が3本。直径3センチぐらいの細いの2本と直径8センチぐらいの太いのが1本です。長さは約39センチ。着物用の布地(反物)が幅36センチなのでそれに合わせているようです。
 細い筒のうち1つは取り外しができます。まずこれに布を巻きます。台に取り付けて、目盛りの付いた、もうひとつの細い筒の下を通して、陶器製の太い筒にきれいに巻きつけます。布を巻いたまま筒を取り外して縦に置くと、水筒のように、お湯を入れて栓をすることができます。筒の中のお湯の温度で布のしわを伸ばすという器具なのです。乾かすのより、アイロン効果が主体のようです。生地によっては、乾かす前の生地を巻き付けて乾かすと同時にアイロンをすることもできますが、糊づけをして1度乾かしたものを霧吹きで湿らせて巻きつけ、しわを取るという使い方をする場合が多いようです。

 付録というか、小冊子が付いています。この器具の使い方ももちろん載っているのですが、「家庭衣服整理の栞(しおり)」という題で、素材別の洗濯のしかたやしまうときの注意なども載っています。
 洗濯機はそんなに普及していなかったようです。振り洗いと浸け置き洗い、素材によってはもみ洗い、といった感じです。ブラシも使います。基本は振り洗いで、小冊子によると、「すべて洗濯は振り洗いに限るのでありますが、とにかくよく振る。」木綿地は石鹸で洗いますが、絹地には硼砂、毛織物にはアンモニア水を使います。硼砂やアンモニア水などはアルカリ性で、汚れを落とす作用があります。アンモニア水は、毛織物以外でも、汗の汚れを落とすのに良いのだそうです。
 染めてある布は、色落ちの防止に、ミョウバンや希硫酸を使います。当時は、色落ちしやすい染料も使われていたのかもしれません。希硫酸は汚れを落とす作用もあるそうです。絹や毛の色ものを洗う時に希硫酸を使います。で、売っている硫酸の濃度はいろいろなので、洗濯に使うときは、「二度位舐めてみて酸いと思う位」に薄めて使うのだそうです。わかりやすいような不安なような。口にしてすぐ「うわ酸っぱい」というのは濃すぎで、何度か味を見ても「……???」では薄すぎる、という事でしょうか。なめても平気なのか?
 絹や羊毛の場合は、風合いを良くするために、仕上げにすすぎ水に酢酸を入れます。また、海藻の、「ふのり」も使われました。糊づけにも使うようですが、この小冊子によると、先染めの織柄の絹地の、ひどい汚れを落とすのに使われたようです。